俳句十二ヵ月

本のご紹介

稲畑 汀子

 

俳句十二ヵ月

理事長  稲畑 汀子

 
厳寒に処す − 一月 −

 一月は一年の最初の月です。それだけに改まった気持ちが強く、すべてのものが新鮮に感じられます。歳時記の初めにずらりと並ぶお正月の季題をみればそのことがよくわかります。おそらく日本人は新年の森羅万象すべてを生命の更新された新しい無垢なものと見て畏み、自分の生活についても新しく始めようとしたのだと思います。そこには敬虔な気持ちとともに不本意だった過去を清算し、今年こそ充実した年にしたい、幸せになりたいという願いも含まれているように思います。「仕事始め」「鍬始め」「漁始め」「縫初」「売初」と日常の行為にも「始・初」をつけて特別視するのはそういった気持ちからで、初日、初空、初明りと自然に「初」をつけるのは畏む気持ちの表れでしょう。

 一月はまた極寒の季節です。冬至のあと十五日目を小寒と呼びますが、例年一月六日頃がそれに当たります。小寒の日から立春の前日までを寒といい、したがって小寒の日を寒の入、寒の入りから寒明けまでの約三十日を寒の内と呼びます。大寒は小寒から数えて十五日目をいい、一年中で、最も寒さが厳しい頃です。だいたい一月二十日頃が大寒に当たります。よく小寒から大寒までの十五日間を小寒と呼ぶ人がありますが、これは誤りです。小寒も大寒も二十四節気の一つで、たった一日を指す言葉ですからこの機会に正しく覚えておきましょう。

 一月はお正月の季題を除けばほとんどが寒の内の季題ですから、楽しい季題、美しい季題であっても、どこか厳しい寒さを感じさせるところがあります。「風花」「雪晴」「寒月」「冬薔薇」「寒紅」などは特にそういった季題でしょう。また「冴ゆる」「凍てる」といった季題の音の素晴らしさは、その意味を離れても充分に寒さというものを鋭く美しく表現し得ていると思います。

 

 海見えて風花光るものとなる     汀子

 風花の舞う六甲山の端山を下りていくと、ぱっと景が展けて明るい海が見えました。その途端、風花は陰鬱な色から光り輝くものに一変していました。海にある陽光が見せてくれた一瞬の風花の変幻を詠んだ一句です。





NHK出版 俳句十二ヵ月 より

 

 

 

 

 

本のご紹介

NHK出版 俳句十二ヵ月〜自然とともに生きる俳句〜

NHK俳壇の本
俳句十二ヵ月〜自然とともに生きる俳句〜
著者  稲畑汀子
発行  安藤龍男
発行所 日本放送出版協会
定価  本体1600円+税

日本に暮らす。俳句と暮らす。

現代俳壇の祖・高浜虚子の孫であり、俳誌「ホトトギス」の現主宰である筆者が、俳句とともに季節を生きる喜びと、虚子直伝の俳句の骨法を、やさしく語る。
季節の言葉「季題」を、古今の名句・美しい写真・実作のエピソードをもとに紹介する第一章「季節を友として」、虚子名言集をもとにした実作解説の第二章「ホトトギスの教え」、自然とともに生きる俳句の豊かさを語る第三章「自然と人間」等、見て美しい、読んでためになる一冊。
俳句の世界に興味を持つ人から、句歴の深い人まで、俳句を愛するすべての人へ贈る、十二か月を俳句と暮らすための俳句入門書。