「仰臥漫録」



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夕顔と干瓢

 脊椎カリエスに侵されていた子規の骨は結核菌により腐り、背中や腹、臀には蜂の巣のように穴があき、そこから膿が流れるため、毎日の包帯の取替えに絶叫・号泣する日々が続いた。その中で、自らの命を透視するかのように、風雨に落ちた夕顔と干瓢二とを描いている。


 前日来痛かりし腸骨下ノ痛ミイヨヽヽ烈シク堪ラレズ、此日繃帯トリカヘノトキ号泣多時。イフ腐敗シタル部分ノ皮ガ、ガーゼニ附著シタルナリト。
 背ノ下ノ穴モ痛ミアリ。体ヲドチラヘ向ケテモ痛クテタマラズ。
 此日風雨 夕顔一、干瓢二落ツ。




『五拾三駅 東海道続絵』の模写

 文学だけでなく美術にも通じていた子規は、多くの画譜や絵画指南書を所持しており、自らの美術書目録も記している。『五拾三駅東海道続絵』も六種ある広重本の中の一冊。特に体の弱った「仰臥漫録」執筆時は、絵を朝夕眺めることが何よりの慰めであった。


五拾三駅 東海道読絵 全
一立斎広重筆 錦橋堂蔵板


此絵本ハ人物ヲ主トシテ
書ケル故不用ノ人物多ク、
浮世絵ノ俗分子多シ。早年
ノ画ナラン。
 草津ニ青花摘トイフ
画アリ。露草ニ似タリ。

 

 


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