虚子記念文学館投句特選句 平成30年






−−平成30年12月−−

【特選 10句】

耳当てて冬木の幹に聞く寝息

兵庫

小杉伸一路

記念樹も枯木へ急ぐ館の庭

新潟

安原 葉

蒲団干す夢をゆたかにするために

兵庫

橋本絹子

神の手の触るるところに返り花

大阪

室田妙子

初雪と告げたき人に墨を磨る

兵庫

岩水ひとみ

ワイパーを止めて初雪確かむる

奈良

好川忠延

川底の砂に靴跡川涸るる

香川

渡部全子

病状を聞いて安堵の年忘

兵庫

三村純也

食すれば鮟鱇の顔忘れけり

兵庫

山口弘子

快方の知らせに聖夜待つ日々に

兵庫

中村恵美

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−−平成30年11月−−

【特選 10句】

風変り押し移り来る鴨の陣

兵庫

三村純也

庭の客北国人は著ぶくれて

新潟

安原 葉

対岸は大きな日向冬に入る

兵庫

二瓶美奈子

小春日のやうな字面の虚子の文字

兵庫

大谷千華

雲低く湖は時雨れず比良颪

滋賀

石川多歌司

手を入れぬ庭を笹子に明け渡す

兵庫

田村惠津子

冬紅葉声なき声を聞く山湖

兵庫

岩水ひとみ

冬紅葉災禍の多き年なりし

兵庫

小杉伸一路

大綿の乱舞終るやすつと消え

兵庫

福間笙子

木の葉髪とて恋心詩ごころ

兵庫

玉手のり子

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−−平成30年10月−−

【特選 10句】

鰯雲らしく整ひ来たりけり

神奈川

藤木和子

秋晴を無駄に過ごしてしまひたる

兵庫

三村純也

霧咽ぶ六甲どこまでも白し

鳥取

前田 千

コスモスの三分咲とは浮くやうに

兵庫

吉村玲子

小鳥来て飛びたる影を写す石

大阪

辻田あづき

水音を奏でる邸の秋高し

兵庫

山際ヨネ子

年尾忌や師事せし祖父も遠き人

兵庫

池田奈美子

爽やかや海からも山からも風

石川

辰巳葉流

爽やかや母にもらひし服を着て

兵庫

進藤剛至

順三忌偲ぶよすがや薄紅葉

滋賀

堀田 民

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−−平成30年9月−−

【特選 10句】

潮の香と青さ運べる竹の春

福岡

島原仁代

記念樹や枝先はやもうすもみぢ

新潟

安原 葉

昃りても風のコスモス暗さなし

兵庫

三村純也

梅雨明けて雲に軽さのありにけり

大阪

綿谷千世子

風に彩混ざりて花野らしくなる

兵庫

玉手のり子

草の花野辺の送りを終へし目に

兵庫

小杉伸一路

露一つ零れ宇宙の生まれたる

大阪

奥村つよし

ちちははの小さく立てる墓参かな

兵庫

進藤剛至

少しづつ秋めくことを信じたく

京都

山崎貴子

月を見て泣くは狼のみならず

京都

奥田まゆみ

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−−平成30年8月−−

【特選 10句】

手花火に家族の歴史ありにけり

兵庫

小杉伸一路

踊り抜く覚悟の髪を束ねけり

兵庫

三村純也

影に翳辷り込みたる晩夏かな

兵庫

奥田好子

芦屋川海へとつづく草いきれ

兵庫

池田雅かず

平田町くの字に曲る松涼し

兵庫

藤井啓子

邸の庭へと新涼の扉押す

兵庫

清瀬 環

自転車のまた通ひたる夜釣かな

兵庫

進藤剛至

半夏生かしら館の裏庭に

新潟

大河内冬華(青少年)

この庭の暦日語る蝉時雨

兵庫

岩水ひとみ

逆縁の喪服姿の涼しさよ

兵庫

ほりもとちか

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−−平成30年7月−−

【特選 10句】

幸せを配り疲れて天道虫

兵庫

吉村玲子

炎帝が空の四隅を押し広ぐ

岡山

石井宏幸

雨粒の固き音より大夕立

兵庫

二瓶美奈子

海の日や七つの海をかけし文

兵庫

森岡喜惠子

たをやかな風あやさんの青芒

兵庫

大谷千華

積み置きて夏座布団の薄さかな

京都

山崎貴子

投げ上げしかなぶん月へ帰りけり

兵庫

小杉伸一路

あをあをと雨降る庭や半夏生

兵庫

田中奈々

暑き日も虚子館を訪ひ学ぶ人

新潟

安原 葉

星涼し三瓶は夜の深き国

兵庫

長谷川朝子

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−−平成30年6月−−

【特選 10句】

咲き初めの花合歓揺るる風やさし

岡山

大槻秋女

老鶯の声に老などなかりけり

奈良

好川忠延

菖蒲園むらさきにして風渡る

大阪

八木 徹

昼灯す梅雨の虚子館みな静か

新潟

安原 葉

芦屋川今日はあかるくさみだるる

兵庫

山西商平

記念樹の高さに五月闇生れず

愛知

村瀬みさを

親燕上下左右に過る雲

東京

荒川ともゑ

丁寧に水打つてあるしじまかな

京都

宮本幸子

雨昏みはぢいて未央柳かな

香川

三好ようこ

ふと二人黙りゐるときさくらんぼ

兵庫

永沢達明

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−−平成30年5月−−

【特選 10句】

ひと色といふ潔きかきつばた

京都

山崎貴子

潮風と川風の街露涼し

石川

辰巳葉流

庭中が水音に濡れ新樹晴

兵庫

上原康子

計らずも美穂女忌となる業平忌

大阪

石橋玲子

薫風や着きて降り立つ館の庭

新潟

安原 葉

あやめ活け句座むらさきの風の生れ

兵庫

柄川武子

山寺の和尚秘蔵の牡丹かな

兵庫

小杉伸一路

マロニエの花に青空透き通る

岡山

伴 明子

明日からの仕事心に夏に入る

大阪

多田羅紀子

夏めきぬ木洩れ日の蔭濃くなりし

奈良

好川忠延

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−−平成30年4月−−

【特選 10句】

整列の中の情熱チューリップ

岡山

伴 明子

忌を修す花人たちへ吾もまた

兵庫

中村恵美

菫すみれ風もすみれになるやうに

兵庫

進藤剛至

虚子館の寂白椿紅椿

兵庫

田中節夫

花万朶虚子のみもとに遊ばれよ

兵庫

田村惠津子

囀や天に届いて雲動く

滋賀

石川多歌司

木蓮の祈りを解きゆく真白

兵庫

池田雅かず

ボール投げ声も投げ合ひ青き踏む

石川

辰巳葉流

行春のひとり占めして資料室

兵庫

橋本絹子

遠山の空の濁りも杉の花

兵庫

三木雅子

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−−平成30年3月−−

【特選 10句】

遅れゐし記念樹急かす木の芽風

新潟

安原 葉

春雨を加へ川音饒舌に

兵庫

山谷彰子

一邸のねびまさりゆく古雛

滋賀

野瀬章子

差し伸べし指の隙間の余寒かな

兵庫

山田佳乃

仰ぐたび春めく思ひ館の空

香川

三宅久美子

春泥の足首つかみさうに待つ

石川

山井きなこ

初花や今日の日差しを淋めず

大阪

友井正明

奮ひ起つやうに六甲山笑ふ

石川

辰巳昌彦

花を去りだんだん花となる心

兵庫

進藤剛至

鳥帰る命の他は携へず

奈良

松田吉上

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−−平成30年2月−−

【特選 10句】

草萌ゆるはやこまごまと館の庭

新潟

安原 葉

木の芽風さへも旧家のたたづまひ

千葉

大木さつき

早春の尖りし風に日差しあり

鳥取

椋 則子

春兆すもの怯ませてゐる大気

東京

荒川ともゑ

撫牛の鼻一杯に梅香る

兵庫

大西美知子

鯉動くところより水温み初む

福岡

介弘紀子

春寒を解くときめきの金メダル

兵庫

清瀬 環

紅梅に触れくれなゐの雨となる

兵庫

池田雅かず

虚子館の神へ仏へ年の豆

大阪

林 曜子

宅配便春立つこの日指定して

兵庫

永沢達明

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−−平成30年1月−−

【特選 10句】

前うしろ向かせ春著の人囲み

兵庫

千原叡子

記念樹や光る冬芽の雨雫

新潟

安原 葉

日脚伸ぶ頃に嫁いできてくれて

兵庫

笹尾玲花

薄氷の水の記憶を取り戻す

岡山

池田純子

鎮魂の山茶花白し震災碑

大阪

大野呂愛子

餅花の紅とは触れてみたきもの

兵庫

小杉伸一路

箸紙のくたびれて来し三日かな

奈良

好川忠延

川涸れて浜風町の海光る

群馬

木暮陶句郎

初旅や齟齬を乗り継ぎ句会へと

徳島

奥村 里

息少し止めて頬寄す寒牡丹

兵庫

雪岡久代

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